"実践Vagrant"を読んだ
Vagrantは普通に問題なく使えているし,本をわざわざ読む必要もないと思ったが,以下のようなモチベーションで購入.
- Mitchell Hashimoto氏の設計思想的な部分を知りたかった
- プラグインをつくりたかった
- 落ち穂拾い
まず,設計思想.1章に”Vagrant道”という節があり,ユースケースというか,Vagrantを使った高レベルなワークフローが説明されている.開発者や運用技術者からみて,普段のプロジェクトの中でVagrantがどのような役割を果たすのかが簡単にまとめられている.Vagrantが近年の開発環境にあまりに自然に入り込んできたのは,このようなビジョンがあってからこそだと思う.誰もが理解できるビジョンを掲げ,それをコードに落とし込むところがMitchell氏のすごさなんだと改めて認識した.開発者としても,ビジョン->コードの流れを参考にしたい.
プラグインの開発
次にプラグイン.これを読んでからいくつかプラグインを作ってみた.公開したのは以下.
プラグインを作るのはとても簡単.本書でカバーされているのは,以下.
- 新しいサブコマンドの開発 (command)
- 新しい設定オプションの開発 (config)
config.vm.provision :docker
のような新しいプロビジョナーの開発 (provisioner)vagrant up
のような既存動作を変更 (hook)
プラグインはrubygemsとして開発する.rubygemを作ったことがあるひとであればすんなりと開発できる.詳しくは書かないが,基本はrubyのDSLによる簡単な記述し,そのDSLの戻り値を決められたメソッドを実装したクラスにするだけ.
すこしハマった部分.本書や公式ドキュメントだとVagrantfile
にVagrant.require_plugin "my_plugin"
を記述してプラグインのテストを行うように書かれているが,自分の環境だとうまく動かなかった.そのため,プラグインをビルドして,直接システムのVagrantに読み込ませてテストを行った.毎回コマンド打つのは億劫なので,以下のようなRakeタスクを作った.
require "vagrant-secret"
require "bundler/gem_tasks"
version = VagrantPlugins::Secret::VERSION
desc "Install plugin to system vagrant."
task :install_plugin do
system("git add -u")
Rake::Task[:build].execute
system("/usr/bin/vagrant plugin install pkg/vagrant-secret-#{version}.gem")
end
desc "Uninstall plugin"
task :uninstall_plugin do
system("/usr/bin/vagrant plugin uninstall vagrant-secret")
end
# alias
task :i => :install_plugin
task :u => :uninstall_plugin
ちょっとTips.プラグイン定義の先頭に以下を記述して,プラグインが実際にVagrantの中で動作しているかを確認するのがよい.これは,本書のコラムに書かれていた内容.他のVagrant pluginのプロジェクトにも採用されている.
begin
require "vagrant"
rescue LoadError
raise "The Vagrant plugin must be run within Vagrant."
end
また,本書には書かれていないけど,プラグインはVagrantfileに直接書くことができる.例えば,OSXからDockerを簡単に使えるようにするプロジェクトであるdvmのVagrantfile
でやられてたりする.本書のapt-get
プロビジョナーをVagrantfile
に直接書くと,こうなる.ものすごい単純なプラグインをつくる場合や,試しにつくってみたい場合はこれで足りる.
公式にも丁寧なドキュメントがある.また,Vagrantのコマンドそのものもプラグインとして実装されているので参考になった.
落ち穂拾い
最後に落ち穂拾い.ざっと読んで自分が知らなかったや,試してなかったことなどをまとめておく.
まず,ネットワークの設定について.forward_port
やprivate_network
はよく使うが,public_network
もある.これを使うと,仮想マシンを物理マシン上のデバイスにして,仮想マシンをネットワーク上の別の物理マシンであるかのように見せることができるようになる.
これができると何が良いかというと,private_network
のようにアクセス可能なIPを持たせるだけでなく,隔離されないので,ゲストマシンが提供するWebサイトをモバイルから確認したり,他のひとと共同作業ができるようになる.設定を有効にし,vagrat up
してブリッジしたいデバイスを選択するだけ.
次に,複数マシン構成のクラスタのモデリング.以下のようにすれば,Webアプリ用のマシンとDB用のマシンをそれぞれ立ち上げることができる.
Vagrant.configure("2") do |config|
config.vm.box = "precise64"
config.vm.define :web do |web|
web.vm.network :private_network, ip: "192.168.50.4"
end
config.vm.define :db do |db|
db.vm.network :private_network, ip: "192.168.50.5"
end
end
新しいサブマシンを定義するブロックは,単にVagrantfileを作成するときの設定ブロックがもうひとつあるだけ.webやdbというのはただの設定変数.また,サブマシンの設定は,プログラミングの変数スコープのように全体的な設定(上で言うとconfig.vm.box
)を引き継ぐ.
vagrant up
やvagrant reload
といったコマンドは,対象マシンの名前を指定して実行できるようになる.例えば,vagrant provision web
とすれば,webと名付けられたサブマシンのみのプロビジョニングが実行される.複数のサブマシンが存在するとき,引数なしでコマンドを実行すると全てのマシンが対象となる.
複数のサブマシンを同一のネットワーク上に配置することができる.Vagrantはデフォルトで,255.255.255.0というサブネットマスクを使用するため,上の例のように最初の3つの部分(オクテット)が同じであれば,マシンは同一ネットワーク上に存在することになる.
$ vagrant ssh web
$ ping 192.168.50.5
vagrant@precise64:~$ ping 192.168.50.5
PING 192.168.50.5 (192.168.50.5) 56(84) bytes of data.
64 bytes from 192.168.50.5: icmp_req=1 ttl=64 time=0.483 ms
64 bytes from 192.168.50.5: icmp_req=2 ttl=64 time=0.374 ms
64 bytes from 192.168.50.5: icmp_req=3 ttl=64 time=0.327 ms
最後にボックス.Vagrantのボックスは,拡張子こそ.box
となっているが,単なるtarファイルに過ぎない.以下のファイルが含まれる.
box-disk.vmdk
: VirtualBoxのエクスポートで得られる.圧縮されたハードディスク.bok.ovf
: VirtualBoxのエクスポートで得られる.マシンを動作させるための仮想ハードウェア.Vagranfile
: 普段使うものと同じ.デフォルト値などを記述する.metadata.json
: Vagratに対して,このボックスが使うシステムを伝える.
プロビジョナーを走らせたり,手動であれこれセットアップしたVagrant環境をboxとして吐き出すことができる.以下のようにするだけ.これでpackage.box
が作成される.
$ vagrant package
VirtualBoxを使って,スクラッチで新しいボックスを生成することもできる.Vagrantユーザの作成やSSHサーバのインストールなどが必要になる.
以上.
わかったつもりでいても知らない設定などが多く含まれていたのでよかった.Vagrantを既に使っている人は,公式のドキュメントやその他のブログポストなどで十分足りると思う(それがVagrantというツールのすごいところでもある).なぜ,Vagrantが良いのかわからないレベルだと本書はとても最適な一冊だと思う.また,プラグインを作りたいひとにもおすすめできる.デブサミの会場で先行販売されてたので思わず購入したが,発売日に電子版の販売がアナウンスされてた.
あるべきなのになかなかなかった.なければしんどいのに,あれば空気のように当然のものとして使ってしまう.それがVagrant.